どうも!にゃんとす@nyantostosです!
『猫伝染性腹膜炎(FIP)』
猫を飼っている方なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか…?
FIPは現代の獣医療でも治すことのできない、いわば『不治の病』。
そんなFIPの新薬が2019年4月に発表されました。
これをTwitterで紹介したところ、大きな反響がありました。
FIP(猫伝染性腹膜炎)の新薬、GS-441524がすごい。FIP猫31頭に対する臨床試験では、18頭で症状が消失、健康状態を維持しているとのこと🤔JFMSに特集記事も掲載されています。不治の病の特効薬になるか…?!
原著論文はこちらから↓ https://t.co/c9sUfuuo8O— 獣医にゃんとす🐾 @nyantostos August 9, 2019
実際に愛猫がFIPを患ってしまった飼い主さんからも多くコメントをいただき、皆さんのFIPに対する注目度の高さを改めて感じました。
そこでこのページでは、現段階で最も有効な治療薬として注目を集める新薬「GS-441524」について、できるだけわかりやすく解説したいと思います。
※当記事は以下の文献を参考に執筆しています。
Pedersen, Niels C., et al. “Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis.” Journal of feline medicine and surgery 21.4 (2019): 271-281.
獣医にゃんとす
– 獣医師・獣医学博士
– 臨床獣医師を経験後、がんをはじめとした難病に苦しむ動物を救うべく研究者を志す。
– 1匹の猫と暮らす「げぼく」
– 著書:猫をもっと幸せにする『げぼくの教科書』
この記事を書いた人
獣医にゃんとす
– 獣医師・獣医学博士
– 臨床獣医師を経験後、がんをはじめとした難病に苦しむ動物を救うために研究者を志す。
– 1匹の猫と暮らす「げぼく」
– 著書:猫をもっと幸せにする『げぼくの教科書』
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猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?
どんな病気?
猫伝染性腹膜炎(FIP)は発症すると数日~数週間以内に死に至る恐ろしい病気です。
FIPの原因は『猫コロナウイルス』です。
猫コロナウイルスは主に感染猫の糞便を介して感染が成立しますが、通常は感染しても、軽い下痢を起こす程度で、ほとんど無症状です。
しかし、一部の猫では、猫コロナウイルスが突然変異を起こします。
△ 猫コロナウイルスは無症状or軽い下痢程度だが、一部はFIPウイルスに突然変異し、FIPを発症する。
この突然変異を起こした猫コロナウイルスこそが「FIPウイルス」で、このウイルスがFIPを引き起こすのです。
猫コロナウイルスはどうやってFIPウイルスに変異するの?
主にストレスや免疫低下が原因と言われていますが、詳しいことはよくわかっていません。FIPを発症しやすい猫を下に示します。
FIPを発症しやすい猫の特徴
- 1歳~3歳の若い猫
- 純血種 (経験からも本当に多いと感じます)
- 多頭飼育や飼育環境の変化などのストレス
- FIVやFeLVなどの免疫低下を伴うウイルス感染
猫伝染性腹膜炎(FIP)の病態
では、突然変異によって生まれたFIPウイルスはどのようにして猫ちゃんの体を蝕むのでしょうか。
変異前の猫コロナウイルスは腸に感染しますが、突然変異によりFIPウイルスになると、主にマクロファージと呼ばれる免疫細胞に感染するようになります。
マクロファージは通常、細菌やウイルスなどの病原体をやっつけてくれる細胞です。
しかし、FIPウイルスに感染されたマクロファージは、制御不能となり、病原体関係なく、大暴れします。
これによって、猫ちゃんの体に大きなダメージを与える非常に強い炎症が起こるのです。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状
FIPは大きく分けて以下の2つの型に分類され、それによって症状も異なります。
ドライタイプで、脳に肉芽腫ができた場合、脳が圧迫され、動画のような神経症状を呈する場合もあります。
実際にはウェットタイプ、ドライタイプの両方の症状を呈する症例も多く、はっきりと2つの型には分けれないこともあります。
このような症状は急激に進行します。
最終的にはほぼ確実に死に至り、平均生存日数はたったの 9 日と言われています。
FIPのこれまでの治療
このような絶望的状況をなんとかしようと、多くの獣医師、研究者たちが様々な治療法を考案し、試してきました。
しかし、有効な治療法は長年見つかりませんでした。
そのため、これまでのFIPの治療は、主に症状を緩和する治療(対症療法)が行われてきました。
これまでの主なFIP治療を以下に示します。
プレドニゾロン/デキサメサゾン | ステロイド剤、抗炎症作用や免疫抑制作用 |
---|---|
高容量シクロスポリン | 免疫抑制作用、胸水の貯留が減少という報告あり |
オザグレル | 血管炎の抑制 |
しかし、これらの対症療法は、症状が少し改善することはあっても、延命効果はほとんどありません。
何故なら、これらの治療では原因となるFIPウイルス自体を殺すことができないからです。
そのため、FIPウイルスを直接殺すことができる抗ウイルス薬の開発が切望されていました。
これまでいくつかの抗ウイルス薬が試されてきましたが、ほとんど効果がなく、有望なものは見つかっていませんでした。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の新薬GS-441524の登場
どんな薬?
2019年4月、この絶望的状況に一筋の光が差し込みました。
カリフォルニア大学デービス校(UC davis)の研究グループが、FIPの特効薬になりうる新薬「GS-441524」を発表したのです。
△ UC davisのFIP臨床試験チーム(UC davisのHPより)
ではこの新薬「GS-441524」とはどんな薬なのでしょうか?
一言でいうと、「FIPウイルスの増殖を直接阻害する」お薬です。
発見の経緯はこうです。
FIPウイルスと同じ仲間(RNAウイルス)であるエボラウイルスの増殖を阻害する「GS-5734」という物質がありました。
「GS-441524」はこの「GS-5734」の前駆体です。
エボラウイルスに効くなら、同じRNAウイルスのFIPウイルスにも効くんじゃね?
そう考え、研究グループはこれら2つの物質に注目しました。
そこで、培養細胞にFIPウイルスを感染させ、これら2つの物質をふりかけるという実験を行いました。
その結果、「GS-441524」のみ、非常に強いFIPウイルスの増殖阻害効果を示したのです!
効果は絶大!?これはもはや特効薬!
研究チームは「GS-441524」が実際のFIP猫に対しても効果があるか検証するために、臨床試験を行いました。
臨床試験に参加した猫は31頭。全てFIPを自然発症した猫です。
この猫たちに「GS-441524」を1日1回、12週間毎日投与しました。
その結果を以下に示します。
治療成績まとめ
- 症状消失・再発なし(寛解):18 / 31 頭
- 症状消失・再発あり → 投与量倍増で寛解:8 / 31 頭
- 死亡または安楽死:5 / 31 頭
合計で 26/ 31 頭 生存!!
生存している26頭は2019年2月時点でも生存が確認されており、2017年の投与開始から2年近く生存していることになります。
これまでFIPの生存日数は診断から9日だったことを考えると…
すごい…すごすぎるよ…
一方で、薬が効かない猫も…
しかし、すべての猫を救うことはできず、31頭中5頭は治療の甲斐なく、亡くなってしまいました。
亡くなってしまった5頭のためにも、何故薬が効かなかったのかを考え、次に繋げること。それが大事です。
死亡した猫5頭の詳細
- 1 頭は一度薬が効いたが、再発。その後症状が悪化 → 安楽死。
- 4 頭は数日で死亡または安楽死。
> 1 頭は一度薬が効いたが、再発。その後症状が悪化 → 安楽死。
これは、FIPウイルスが何らかの耐性変化を起こした可能性があります。
より詳細なメカニズムを研究していく必要があります。
> 4 頭は数日で死亡または安楽死。
この4頭の猫ちゃんの剖検を行なったところ、なんと3頭でウイルスが全く検出されないことがわかりました。
これはつまり、3頭の猫では亡くなってしまったものの、ウイルスを猫の体内から排除することには成功していたことを意味します。
しかし、猫ちゃんの体の回復が間に合わず、先に力尽きてしまった…ということだろうと研究グループは考察していました。
早期発見をし、できるだけ早く「GS-441524」を投与する必要があることがわかりますね。
日本で新薬GS-441524は使える?
残念ながら、現段階では「GS-441524」は日本では未承認のお薬なので、基本的には使用できません。
しかし、一部個人輸入している動物病院もあるようで、すでに治療を受けている猫ちゃんもいるようです。
日本で承認薬として一般的に使えるようになるには、もう少し時間がかかるでしょう。
猫伝染性腹膜炎(FIP)にならないためには?
FIPの発症を完全に防ぐことできません。
また、FIPの原因となる猫コロナウイルスも多くの猫が既に保有しており、その感染を防ぐこと非常に難しいのが現状です。
そのため、FIPにならないためには、猫コロナウイルスをFIPウイルスに変化させないこと、すなわちストレスや免疫低下を避けることが重要です。
FIPを発症しないために飼い主さんができること
- 猫にとってストレスフリーな飼育環境を目指す
- FIVやFelVなどの免疫低下を招くようなウイルス感染を防ぐ
まとめ
FIPの致死率はほぼ100%に近く、有効な治療法も存在しませんでした。
そのため「GS-441524」は、画期的な新規治療薬として、FIPの治療を大きく変えるでしょう。
自分もこんな多くの猫ちゃんを救えるような研究をしたいなぁと心から思います。
本当に素晴らしい。
日本でも承認され、FIPに苦しむ猫ちゃんのもとに一刻も早く届いて欲しいですね。