どうも!獣医師のにゃんとす@nyantostosです。
猫ちゃんを飼っていると「あれ、便秘気味かな?」と思うことはないでしょうか?
実は猫はとても便秘になりやすい動物です。
便秘って大したことない様に思われるかもしれませんが、猫ちゃんにとっては体にかなり負担がかかるんですよね。
重度になると食欲がなくなったり、体調を崩したり、最悪の場合「巨大結腸症」という病気になってしまう可能性もあります。
ねこ主として、便秘に対する正しい知識を身につけておきましょう!
獣医にゃんとす
– 獣医師・獣医学博士
– 臨床獣医師を経験後、がんをはじめとした難病に苦しむ動物を救うべく研究者を志す。
– 1匹の猫と暮らす「げぼく」
– 著書:猫をもっと幸せにする『げぼくの教科書』
この記事を書いた人
獣医にゃんとす
– 獣医師・獣医学博士
– 臨床獣医師を経験後、がんをはじめとした難病に苦しむ動物を救うために研究者を志す。
– 1匹の猫と暮らす「げぼく」
– 著書:猫をもっと幸せにする『げぼくの教科書』
なりすまし行為に注意
獣医師相談サイトなどで獣医にゃんとす、もしくはこの記事のゴーストライターを名乗るなりすまし行為が多数発生しております。このブログのすべての記事を獣医にゃんとす本人が執筆しております。またいかなるプラットフォームでも個別相談はお断りし、かかりつけ医の受診をお願いしております。なりすまし行為にはご注意ください。
何日排便しなければ便秘?
便秘とはご存知の通り、「便が出ないこと、または便が出にくい状態」のこと。
では何日便が出ていないと「便秘」になるのでしょうか?
きちんとした定義はありませんが、以下の様な場合は便秘と考えてよいでしょう。
- 丸二日間以上、全く便が出ていない
- 便は出るが、小さくてコロコロした便が少量でる
- トイレで気張っているが、なかなか便が出ない
- トイレに出たり入ったりする
- 便のキレが悪く、排便後お尻歩きをする
同時にうんちの状態もよくチェックしましょう。
また便秘の場合は以下の様な症状が認められる場合もあります。
- いきみすぎて嘔吐する
- 少量の粘液や出血を伴う場合がある
- トイレ以外の場所で排便してしまう
- 重度になると食欲・元気低下
いきみすぎて排便時に吐いてしまう猫ちゃんは結構多いです(嘔吐は他の病気の場合があるので注意)。
また硬い便が腸の粘膜を刺激・傷つけることで、粘液便や出血を伴うことも。
飼い主さんが便秘と間違いやすい症状に、尿路閉塞(おしっこの通り道が結石などによって詰まってしまう)があります。トイレで気張っているから便秘かな?と思っていたら、実は便ではなく、尿が出ていなかった…ということも。
尿路閉塞は命に関わる緊急疾患ですので、便秘かな?と思った時は必ずおしっこが出ているかどうかも確認するようにしましょう!
便秘になりやすい猫の特徴とは!?
どんな猫ちゃんが便秘になりやすいの??[
ここで猫の便秘の危険因子について解析した2019年の研究をご紹介しましょう。
研究デザインはこんな感じ。
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研究内容の詳細
Benjamin et al, Retrospective evaluation of risk factors and treatment outcome predictors in cats presenting to the emergency room for constipation. JFMS, 2019.
この研究では過去に緊急外来に来院した計288匹の猫ちゃんについて、医療記録をもとに解析を行いました。
- 便秘症と診断された猫189匹(便秘群)
- 別の病気で来院した猫の中からランダムに選んだ99匹(対照群)
そしてこれらの猫ちゃんについて、過去の医療記録を元に以下のデータを収集しました。
- プロフィール(種類・性別・年齢など)
- 治療歴
- 食事(ドライフード vs ウェットフード)
- 脱水の有無
- 腹部に痛みはあるか?
- ボディコンディションスコア(BCS;猫の体型の指標)
- 心雑音の有無
- 血液ガス測定結果
- 腹部画像検査所見
- その他院内で行った全ての治療
解析の結果、以下の4つの便秘のリスク因子がわかりました。
- 高齢
- 肥満
- 慢性腎臓病
- 便秘の既往歴がある
猫の便秘の原因をきちんと統計学的に証明した研究は私が知る限りでは他にはありません。詳しく見ていきましょう。
高齢な猫
対照群99匹の平均年齢が6歳であったのに対して、便秘群189匹の平均年齢は10歳と高齢猫ちゃんが便秘になりやすい可能性が示されました。
歳をとると単純に腸の機能が低下するだけでなく、様々な病気を併発するようになります。
例えば関節炎は多くの高齢猫ちゃんで発症すると言われています。
トイレへの出入りや排便ポーズの時に関節が痛み、トイレを我慢するようになってしまいます。
また高齢の猫ちゃんは後で説明する慢性腎臓病を患っている子が多いので、便秘になりやすいのではないかとも考えられます。
なぜ高齢猫が便秘になりやすいか?
・腸の機能が低下するから
・関節炎や慢性腎臓病になりやすいから
肥満
便秘群では体格・肥満度を示すボディコンディションスコア(BCS)の値が、対照群に比べて有意に高いことがわかりました。
つまり、肥満猫は便秘になりやすい可能性があります。
しかし、なぜ肥満になると便秘になりやすいか、そのメカニズムについてはよくわかっていません。
肥満によって関節に負担がかかった結果、関節炎になり、トイレを我慢するようになるのでは、とも言われています。
どちらにせよ、便秘の予防には適切な体重管理が必要なようです。
なぜ肥満猫が便秘になりやすいか?
・よくわかっていない
・関節炎になりやすいから?
慢性腎臓病
慢性腎臓病の猫ちゃんでは3.8倍便秘になりやすいことがこの研究からわかりました。
慢性腎臓病(特に初期)になると、尿の量が増えて、体の水分がどんどん失われていきます。
つまり慢性的な脱水状態になります。
体の水分が不足すると、腸からもっと水分を吸収しようとするようになり、その結果乾燥した硬い便になってしまうのです。
また慢性腎臓病の猫ちゃんは体内のミネラルのバランスが崩れやすく、それによって腸の動きが悪くなっているのではという指摘もあります。
なぜ腎臓病が便秘を引き起こすか?
・尿量が増え、脱水するから
・ミネラルのバランスが崩れ、腸の動きが悪くなるから
慢性腎臓病以外の疾病は便秘と関連しなかった
以下の疾病は便秘との関連は認められませんでした。
- 糖尿病
- 甲状腺機能亢進症
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 消化器型リンパ腫
- 心音の異常
糖尿病や甲状腺機能亢進症では、慢性腎臓病と同様に尿量が増え、脱水状態になりやすいにもかかわらず、便秘の危険因子ではなかったことは興味深いです。
単純に脱水するからだけではなく、さまざまな因子が複雑に絡み合っているのでしょうね。
便秘は慢性腎臓病の初期症状かも!?
この研究では、慢性腎臓病の猫は脱水しやすく、便秘になりやすいことがわかりました。これは裏を返せば、便秘になりやすい猫は慢性腎臓病かもしれないということです。
便秘が続くようなら、健康診断も兼ねて1度動物病院を受診されることをオススメします。
そのほかの便秘の原因
以下の場合も便秘の原因になり可能性があります。
トイレの問題
猫はとても綺麗好きでこだわりが強い動物です。
そのため、トイレに対して以下のような不満があると、トイレを我慢してしまい、結果便秘になってしまうのです。
トイレが汚れている
多頭飼いでトイレの数が足りない
猫砂が好みではない
トイレの場所が猫の嫌がる場所にある
排便時に痛みを感じている
特に高齢猫ちゃんでは、ほぼ全ての猫ちゃんで程度の差はあれど、四肢の関節炎を持っていることがわかっています。
前述の通り、関節炎があるとトレイへの出入りや排便姿勢の際に痛みを感じてしまい、排便回数が減少してしまうのです。
また異物や腫瘍など結腸または直腸に異常があったり、痛みがある場合も同様に、排便を我慢してしまうことがあります。
肛門周囲の膿瘍または他の痛みを伴う皮膚の状態も排便をためらう原因になることも。
- 関節炎
- 結腸・直腸の異常
- 肛門まわりの異常
交通事故の既往歴
特に保護された猫ちゃんや外飼いの猫ちゃんに多いのがこれ。
交通事故によって、腸の収縮を制御する神経が傷ついてしまったり、骨盤が変形して骨盤内の結腸が圧迫されてしまったりすると、便秘になってしまう可能性があります。
便秘はほっておくと危険!
便秘は大したことのない症状としてとらわれがちですが、ほっておくのは良くありません。
便秘になった猫ちゃんは以下のような悪循環に陥ってしまい、どんどん便秘は悪化して行きます。
食欲や元気が無くなったりするほど重度になると、浣腸や摘便(指で便を掻き出す)の処置が必要となることも。
また、長期間便が結腸に残ることによって、腸の壁が伸びきってしまい、最悪の場合「巨大結腸症」という病気を発症してしまうのです。
早めに悪循環を断ち切り、便秘の重症化を防ぐ必要があります。
動物病院ではどんな治療をする?
動物病院で行う便秘の治療は以下の通りです。
- 便秘の原因を調べる
- 浣腸や摘便
- 食事療法(療法食)
- 外科手術
便秘の原因を調べる
まずは触診で硬い便が溜まっていることを確認します。
重度の便秘の場合や食欲不振・元気消失・嘔吐などの症状を認める場合は、全身状態の把握&便秘の原因の探索のため、血液検査やレントゲン検査を行います。
脱水や腎臓値の上昇などがあれば、水和・腎臓病の治療も並行して行います。
異物や骨盤骨折等による結腸の閉塞が疑わしい場合は、レントゲン検査を実施する場合もあります。
浣腸や摘便
カチカチの便を浣腸や指を使って掻き出す(摘便)処置を行います。
必要に応じて麻酔をかけて実施する場合もあります。
猫ちゃんにとっては負担の大きい処置です。
食事療法(療法食)
最近では猫の便秘に対する療法食が出ています。
これは非常に良く効きます。
うちのにゃんちゃんもたまに便秘気味になった時は、この一時的にこのフードに切り替えると一発で改善します。療法食は必ず獣医師の指導のもと与える
Amazonや楽天で療法食が誰でも手に入るようになっていますが、必ず獣医師の指導のもと与えるようにしてください。
ペット医療の療法食の効果は素晴らしいものがあり、時に薬をも凌駕する効果を発揮する場合もあります。
逆を言えばたかが食事!と素人判断で与えるのは非常に危険ということです。
実際に名前の似た別の療法食を買ってしまい、便秘が悪化した事例もあるようです。
なので、あえて商品リンクも貼りません。
かかりつけの動物病院で相談してみてくださいね。
外科手術
便秘を放置した結果、巨大結腸症になってしまうと、元に戻ることはありません。
その場合は外科手術で伸びきった結腸を摘出する手術を受ける必要があります。
お腹を切るわけですから、猫ちゃんにとっての負担はかなり大きいものです。
そうなる前にしっかりと予防・治療を行いましょう!
便秘を予防しましょう
便秘にならないように、おうちで対策をしましょう!
- 水分量を増やす
- 適切な体重管理
- トイレを綺麗に保つ
水分量を増やす
1番の予防は日頃から十分な量のお水を飲ませるようにすることです。
以下の記事に飲水量を増やすコツをまとめました。
ドライフードかウェットフードかは便秘のなりやすさには関係ない!?
上述の研究では、意外にもフードの種類は便秘のなりやすさには関係がないとの結果が得られました。
しかしこれは、この研究に参加した猫ちゃんたちが食べていたフードは水分量、繊維質の含有量共にかなりばらつきがあり、フードに関しては信頼性が低いデータになっていると思われます。
実際に別の研究ではウェットフードを与えた方が便の水分含有量が上がり、より柔らかくなりやすいという結果(Thomas et al, Journal of nutritional science, 2017)もありますし、便秘症の時は積極的に水分をとるべきでしょう。
筆者たちも、この研究からはいくつかのドライフードが便秘のリスクを上げている可能性は否定できないし、便秘の場合はおそらくウェットフードの方が良いだろう(特に慢性腎臓病が原因の場合)と考察しています。
適切な体重管理
上記の研究で、肥満は便秘のリスクになることがわかりました。
肥満は便秘だけでなく、様々な病気のリスクになることが知られています。
こまめな体重測定とフード量の見直しで日頃からお家で体重管理をしっかりしていきましょう。
体重管理については今後記事にまとめる予定です。
トイレを綺麗に保つ
猫ちゃんがトイレを我慢することなく、快適にトイレができるように以下のことを実践しましょう!
こまめに掃除する
トイレを清潔に保つにはこまめに掃除してあげるのが1番です。
トイレをしたらすぐとってあげるのがベストですが、少なくとも朝・夕方の2回は掃除をしてあげましょう。
その時に排尿・排便のcheckをつけて置くと、1日の回数やいつからウンチが出ていないかが一目でわかるので、GOODです。
また最近の行動学の研究では、猫はとにかくトイレに何かが入っていることを嫌うようです。
例えば掃除用のスコップもトイレ外かトイレの端に置くようにしてあげましょう。
猫が好むトイレにする
様々な研究が猫は公園の砂場のような、広くて目の細かい猫砂のトイレを好むことを示しています。
トイレを気に入らない場合、猫はうんちをするのを我慢するようになるので、猫好みのトイレにすることは非常に大切です。
以下の記事では猫トイレと猫砂の選び方を解説していますので、ぜひチェックしてみてください。
トイレの数を増やす
またトイレは2つ以上用意するようにしましょう。
多頭飼いの場合は一般的に頭数 + 1個のトイレが必要と言われています。
うちはにゃんさん1匹だけですが、形・大きさの異なる3つのトイレを置いています!トイレごとに猫砂の深さなども変えてみると良いかもしれません。
トイレを置く場所を見直す
トイレを暑い部屋や寒い部屋に置いている場合、猫ちゃんはトイレをめんどくさがってしまう可能性があります。
また、食事スペースとトイレが近いのも良くありません。
人が生活する快適な部屋に、食事スペースから離れた場所に置いてあげるのが良いでしょう。
まとめ
便秘は猫ちゃんにとっても負担の大きい症状です。
- 高齢
- 肥満
- 慢性腎臓病
- 便秘の既往歴がある
便秘になりやすい猫ちゃんの特徴を理解し、便秘かな?と思ったら早めの対応する、長引くようなら動物病院でしっかり検査してもらいましょう。