こんにちは、獣医師のにゃんとすです。
膀胱はおしっこを一時的に貯める臓器で、膀胱で炎症が起こると頻尿や血尿、排尿時の痛みなどの症状が現れます。
膀胱炎(特に特発性膀胱炎)は膀胱や尿道の病気(下部尿路疾患; FLUTD)の約60%を占める非常に多い疾患です。
また尿石症や尿路感染症でも膀胱炎は起こります。
猫ちゃんはおしっこトラブルが多いので、膀胱炎は飼い主さんがよく理解しておくべき病気の1つです。
そこで、この記事では『猫の膀胱炎』について詳しく解説します。
猫の膀胱炎の原因は?
猫の膀胱炎の主な原因はストレス、細菌感染、尿路結石などがあります。
1. ストレスによる猫の膀胱炎(特発性膀胱炎)
猫の膀胱炎で最も多いもの(およそ半数)が『特発性膀胱炎』と呼ばれる膀胱炎です。
『特発性』とは『原因不明の』という意味ですが、ストレスが主な原因ではないかと考えられています。
ストレスによって交感神経の活性化やホルモンバランスの変化が起こり、それによって膀胱のバリア機能が弱まることで膀胱炎を発症するのではないかと考えられています。
特に覚えておきたいことは、特発性膀胱炎の発症を高める因子として『完全室内飼い』が多くの調査で共通して報告されていること。
危険な感染症や事故から守るためには室内で飼うことは必須ですが、ただ室内に閉じ込めることは猫にとってストレスになります。
猫ちゃんが室内でも楽しくストレスフリーに過ごせる環境を作ってあげることが非常に重要です。
その他にも関節炎のような痛みを伴う病気が隠れている、子供や孫が生まれたor遊びに来るようになった、家の近くで工事が始まった…などなど様々な環境や体調の変化が猫のストレスになる場合があります。
実際にあった特発性膀胱炎発症ケース
- 子供や孫が生まれた or 遊びに来るようになった
- 家の近くで工事が始まった
- 同居猫と仲が悪い
- 同居猫や犬が亡くなった
- お留守番の時間が長い
- 関節炎や胃腸疾患などの痛みを伴う病気が隠れていた
- 通院回数が多い
特発性膀胱炎はストレスだけでなく、肥満、運動不足、水分の少ない食事(ドライフードのみ)なども関連していると考えられています。
特発性膀胱炎のリスク因子2 Forrester, S. D. & Towell, T. L. Feline idiopathic cystitis. Vet. Clin. North Am. Small Anim. Pract. 45, 783–806 (2015), DOI: https://doi.org/10.1016/j.cvsm.2015.02.007, 3石田卓夫, 猫の診療指針Part1, 緑書房, 2017
- 完全室内飼い(= 室内環境が猫に優しくない)
- 肥満、太り気味
- 若い猫(10歳以下、特に2-7歳)
- 多頭飼育
- オス(去勢済み)で多い傾向
- 飲水量が少ない
- ドライフードのみの食事
- 狩猟行動(遊び)が足りない
- 引っ越しをする
- 同居の猫より臆病
特に運動不足で太っている若いオス猫は発症リスクが高いので注意が必要です!
2. 細菌感染による猫の膀胱炎
皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌や便中の大腸菌などが尿道や膀胱に感染し、膀胱炎を引き起こします。
人間や犬では細菌感染による膀胱炎が多いですが、猫では比較的少なく、特に若齢ではほとんどが特発性膀胱炎で尿路感染は稀です。
しかし、高齢の猫ちゃんではその割合は増加し、細菌感染による膀胱炎がおよそ半数を占めるというデータもあります。
3. その他の原因による猫の膀胱炎
尿路結石がある場合は、結石による物理的な刺激によって膀胱炎を起こすことがあります。
また猫では比較的少ないですが、膀胱に腫瘍がある場合にそれに伴う膀胱炎が起こります。
実際には細菌性膀胱炎や尿路結石に伴う膀胱炎の陰に特発性膀胱炎が隠れていることが結構あるので注意が必要です。特発性膀胱炎がかなり多いんですよね〜….
猫の膀胱炎の症状
飼い主さんが最も気づきやすい症状は何度もトイレに行く、ポタポタ尿が垂れる、陰部を舐める、排尿ポーズを取るがおしっこがでない、痛みを感じて鳴く、血尿が出るなどです。
またトイレ以外の場所でおしっこをしてしまうというのも特徴的な症状です。
ただし、トイレ以外での排尿であっても、まとまった量のおしっこをする、きちんとおしっこを隠そうとする、壁へのスプレー行動などは膀胱炎ではなく、行動学的な問題やトイレや猫砂に不満がある場合があります。
猫の膀胱炎の検査・診断方法
膀胱炎のような症状がある場合、獣医師はまずはどんな症状があるか?いつから症状があるか?などをしっかり問診します。
このときに可能であれば、おしっこをするときやトイレに入ったときの猫の様子を動画に収めたり、おしっこの実物や写真などがあると非常に助かります。
また特発性膀胱炎はストレスが原因のひとつなので、生活環境(飼い主さんの家族構成、同居動物の有無、室内飼いかどうか、食事内容やトイレの種類、環境の変化があったかどうかなど)について詳しくお聞きします。
またその他には以下のような検査を実施することが多いです。
尿検査: おしっこに血が混ざっていないか、タンパクが漏れていないか、pHは傾いていないかなど、おしっこの性状について専用のペーパー用紙におしっこを垂らして検査します。顕微鏡で覗いて細菌やがん細胞がいないかも確認します。
尿の細菌培養検査: 感染している細菌数が少ない場合に細菌が感染しているかどうか、また抗生物質が効かないときにどの抗生物質が効くかどうかをチェックする検査です。
エコー検査(超音波検査): お腹にプローブを当てて、膀胱の構造を観察します。膀胱の壁が厚くなっていないか、結石や腫瘍ができていないかなどを調べることができます。
血液検査: 全身の健康状態を知るのに適した検査です。膀胱炎に特化した検査項目などはありませんが、おしっこがつまってしまっているときに危険な状態かどうかを確認したり、他の病気が隠れていないかを検査するときに実施します。
レントゲン検査: おしっこの通り道がつまっているかどうかの検査などに使用します。
猫の膀胱炎の治療法
おしっこの詰まりがある場合はまずそれを解除する必要があります。
カテーテルを陰茎から挿入し、尿道に詰まった結石や栓子を除去します。
その後は膀胱炎の原因にあわせて治療が決定されます。
猫の膀胱炎の治療法
- 特発性膀胱炎: トイレや猫砂の見直し、食事療法、鎮痛薬や抗不安薬など
- 細菌性膀胱炎: 適切な抗生物質の投与
- 尿路結石や腫瘍による膀胱炎: 原疾患の治療に準ずる
トイレや猫砂の改善や食事の見直しは特発性膀胱炎だけでなく、細菌性膀胱炎や尿路結石の治療でもとても大事なのでチェック!
その他にも、痛みが強い場合は鎮痛薬(痛み止め)、膀胱の筋肉がけいれんしてうまく排尿できない場合は排尿障害治療薬などが投与されます。
各治療法の詳細について
猫の膀胱炎に対する
トイレや猫砂の改善
『なんだトイレかよ』と思うかもしれませんが、多面的環境改善(MEMO)と呼ばれる重要な治療法(予防法)です。
トイレや猫砂に不満があるとトイレに行くことを我慢してしまい、膀胱炎の発症・増悪、尿結晶の結石化につながってしまいます。
トイレを置く場所や数も大事です!頭数+1個を用意するようにして、他の猫に邪魔されないようにそれぞれ離れた場所に置くようにしましょう!
トイレ以外にも高いところ(見晴台)をつくる、十分な遊び時間を確保する、安心できる場所や落ち着ける場所を確保するなどの対策も非常に重要です。
詳細な内容については『やってはいけない猫の飼い方』についての記事を参照してください。
猫の膀胱炎に対する
療法食および食事療法
特発性膀胱炎の場合は、c/dマルチケアコンフォート(ヒルズ)やユリナリーS/O+CLT(ロイヤルカナン)などの療法食があり、高い治療効果が認められています。
実際にヒルズの研究によると、特発性膀胱炎の再発を89%抑えたそうです4Kruger, J. M. et al. Comparison of foods with differing nutritional profiles for long-term management of acute nonobstructive idiopathic cystitis in cats. J. Am. Vet. Med. Assoc. 247, 508–517 (2015) https://doi.org/10.2460/javma.247.5.508。
これらのフードはpH調節やミネラル制限などに加えて、加水分解ミルクプロテインとトリプトファンが含まれており、尿路結石の予防と同時に抗ストレス効果が得られるフードです。
これらのフードは療法食です。自己判断で与えると健康を害する可能性があります。必ず獣医師の指導のもと与えるようにしてください。
水分の摂取量を増やすことも膀胱炎の効果的な治療法/予防法です。
特にドライフードのみの食事は膀胱炎や尿路閉塞のリスク因子としても報告されているので、上手にウェットフードを組み合わせることが大切です。
その他の方法に関しては『猫の飲水量を増やすコツ』の記事を参照してください。
猫の膀胱炎に対する
薬物療法(痛み止めや抗生物質など)
痛み止め: 膀胱炎は痛みを伴うので、排尿時に鳴くなどの痛がっている様子がある場合は痛み止めを使用します。種類としてはメロキシカム(メタカム)やロベナコキシブ(オンシオール)などの非ステロイド系抗炎症薬、オピオイド系の レペタン(ブプレノルフィン)などが使用されます。
排尿障害治療薬: 炎症によって膀胱の筋肉が緊張して、おしっこが出ないときに使います(フェノキシベンザミンやプラゾシンなど)。
三環系抗うつ薬: 特発性膀胱炎において不安行動やその他の行動異常が強く見られる場合に使用しますが、基本的には使用しません。食事療法や環境改善でも症状が改善しない場合などに使用を考慮する場合があります。
抗菌薬(抗生物質): おしっこ中に細菌が検出されたとき(細菌性膀胱炎)に使用します(アモキシシリンなど)。特発性膀胱炎など細菌の感染が認められない場合は効果がなく、耐性菌の発生につながるため使用すべきではありません。
止血剤: 血尿が出ている時に処方されたり投与されることがありますが、ほとんど効果がありません。またトラネキサム酸の使用は膀胱の中で血が固まり、血餅が尿道につまってしまう可能性があるので使用は推奨されていません。
猫の膀胱炎の予防法
猫の膀胱炎にならないためには、治療のときと同じく、トイレや猫砂をはじめとした室内環境の改善、ウェットフードなど水分摂取を増やすことが大切です。
太っている猫は特発性膀胱炎を発症しやすいので、獣医師の指導のもとダイエットに挑戦したり、遊ぶ時間を増やして運動不足を解消してあげましょう。
また猫は適度な距離感を好む動物ですので、飼い主さんの愛情がかえってストレスの原因になってしまうこともあります。
特に猫ちゃんが眠っているときやくつろいでいるときに無理にかまったり、お腹に顔をうずめたりといった行動はなるべく控えるようにしましょう。
また子供の存在がストレスになる場合も結構多いので注意が必要です。
お子さんと「猫ちゃんに自分からかまわない」というルールを作ると良いかもしれません。
猫の膀胱炎に関するQ&A
Q. 猫が膀胱炎で死ぬことはある?
A. 猫の膀胱炎は基本的には命に関わるような病気ではありませんが、オス猫は注意が必要です。
というのも、オス猫は非常に尿道が細く折れ曲がっているため、膀胱炎によってできた沈殿物(尿道栓子という)や尿結石が詰まりやすいのです。
尿道が詰まってしまうと、おしっこを体外に出すことができず、体内に毒素や不要物が溜まり、危険な状態に陥る場合があります。
尿道が詰まってすぐ(数時間以内)の症状
- おしっこが出ない
- おしっこを少量頻回する
- 陰部から尿がポタポタ垂れる
- 排尿時に鳴く・痛がる
- 陰部を舐める
- 血尿
時間が経過したときの症状(特に危険)
- 嘔吐
- 食欲不振
- 低体温
- ぐったりする
- 脱水
- 不整脈
また膀胱炎の炎症が尿道まで波及したり、結石や尿道栓子がつまったりすると尿道炎を併発することもあります。こうなってしまうとさらにおしっこがでにくい状態になってしまいます。
尿道閉塞や尿道炎は圧倒的にオス猫が多いですが、メス猫でも膀胱が炎症で固くこわばってしまい、おしっこが出せなくなることがあるので注意が必要です。
Q. 猫の膀胱炎は自然治癒する?
A. 自然治癒は期待せず、必ず動物病院を受診しましょう!
無治療でも症状が改善することもありますが、上記のようにおしっこが詰まっている場合は危険な状態に陥ってしまう可能性が高いので、膀胱炎を疑う症状があれば動物病院で治療を受けることが必須です(多くの場合、適切な治療により数日〜1週間以内で症状の改善が認められます)。
症状がいったん落ち着いても再発や慢性化する場合が多いので、決して自己判断せずに獣医師による治療や食事、室内環境の指導を受けるようにしましょう。
特に特発性膀胱炎は適切な治療を受けていても、半数の猫ちゃんが1-2年以内に再発すると言われているので、治療を受けない場合はさらにその確率は高まるでしょう。
また細菌性膀胱炎の場合は抗菌薬(抗生物質)の投与が必要になります。また細菌の感染を起こしやすくする病気が他に隠れていないか、一度検査をしておくとよいです。
Q. 猫の膀胱炎の治療費はいくら?
A. 猫の状態や検査・治療内容などによって大きく変わります
猫の状態や検査・治療内容などによって大きく変わるので、あくまで目安です。
細菌性膀胱炎で抗生物質の投与などの場合は数千円-2万円、おしっこが詰まっているときは2万〜になるでしょう。
いずれにしても初診で膀胱炎を疑う症状がある場合、数万円かかる場合がほとんどのように思います。
Q. 愛猫が膀胱炎ですが、抗生物質が効きません!
A. 耐性菌の出現や特発性膀胱炎を併発している可能性があります
基本的には尿検査で細菌が認められた場合(細菌性膀胱炎)に、抗生物質を投与することになります。
その場合、抗生物質で症状が改善することが大半ですが、なかには抗生物質が効かない場合があります。
その際に考えられることは①耐性菌が出現している、②特発性膀胱炎など他の原因による膀胱炎を併発しているなどが考えられます。
耐性菌については尿細菌培養検査を実施し、現在使用している抗生物質が効くかどうか確認する必要があります。
特発性膀胱炎の併発は比較的多く、抗生物質による細菌性膀胱炎の治療だけでなく、室内環境やトイレの改善、療法食を与えるなどが必要です。
現在の治療に納得いかない点がある場合、まずはかかりつけの獣医師にしっかり相談してみてください。
Q. 猫の膀胱炎に有効な市販薬やサプリメントはありますか?
A. あくまで補助です。動物病院を受診し、原因にあった治療を受けましょう。
猫の膀胱炎に対するサプリメントはウロアクトプラスやクランベリーU液などが使用される場合があります。
クランベリー成分はいくつか報告があり、細菌性膀胱炎や特発性膀胱炎に一定の改善効果が認められたようです5Colombino, E. et al. A new diet supplement formulation containing cranberry extract for the treatment of feline idiopathic cystitis. Nat. Prod. Res. 36, 2884–2887 (2022) https://doi.org/10.1080/14786419.2021.1925273 6高橋真理ら, 猫におけるクランベリーエキス含有サプリメントの有効性に関する検討, 第2回日本獣医腎泌尿器学会学術総会, 2009(しかし、クランベリーにはシュウ酸塩が多く含まれており、尿路結石のリスクが上昇する可能性が指摘されています)。
またサプリメントではありませんが、ストレス軽減効果を狙った『フェリウェイ』というフェロモン製剤が統計学的な有意差はなかったものの、症状の改善傾向が認められたそうです7Gunn-Moore, D. A. & Cameron, M. E. A pilot study using synthetic feline facial pheromone for the management of feline idiopathic cystitis. J. Feline Med. Surg. 6, 133–138 (2004) https://doi.org/10.1016/j.jfms.2004.01.006。
しかし、これらの研究は観察期間が短く、症例数も少ないため、本当に効果があるかどうかはまだ研究段階といったところです。
「すごく効きました!」という口コミがありますが、膀胱炎は短期間で改善に向かうことも多く、他の治療法が効いているだけかもしれません。
サプリメントはあくまで『Supplement: 補助』です。
特発性膀胱炎の場合は室内環境の改善や食事療法、細菌性膀胱炎の場合は適切な抗生物の投与が最も重要ですので、サプリメントの効果を過信せずに必ず動物病院を受診し、適切な治療を受けましょう。
Q. 猫の膀胱炎にマッサージやツボは有効ですか?
A. 猫の膀胱炎に効くと科学的に証明されているマッサージやツボはありません。
むしろ膀胱炎のときは痛みを伴う事が多く、お腹をさするようなマッサージは猫にとって強いストレスになる可能性があります。
Q. 寒いと猫が膀胱炎になると聞きました。暖めたほうがよいですか?
A. 猫は寒いとトイレを我慢するようになります。部屋を暖めたり、暖かい部屋にトイレをおいてあげましょう!
気温が下がり、寒くなるとトイレに行くことがめんどくさくなるのは猫ちゃんも一緒。
実際に冬は膀胱炎や結石などのおしっこトラブルが増加する印象があります。
特に猫トイレを廊下や玄関に置いている方は要注意で、冬はリビングなど暖かい場所に置いてあげましょう。
神経質な子の場合は目隠ししたり、部屋の隅に置くと良いですよ。
猫の膀胱炎のまとめ
猫の膀胱炎は基本的には命には関わりませんが、痛みを伴うので猫ちゃんの生活の質を著しく低下させる病気です。
また特にオス猫の場合は尿道閉塞や尿道炎などやっかいな病態へと進行することがあるので、注意が必要です。
膀胱炎は猫の病気の中でも非常に多いので、しっかり知識をつけておきましょう!